昔「たま」というかわいい名前のバンドが、嵐のように沸いて嵐のように去った。という感覚がある。その時特に入れ込んだ訳ではないが、このバンドの歌詞がとても文学的なのだ。歌詞というより「現代詩」と言えよう。
超ヒット曲だし、なんだかほのぼのとした音だしで、聴いただけでは気づかないかもしれないが、歌詞カードを見ると、仰天する。詩的な上に、全体を通すと意味が深い。歌詞全体の言わんとするところが気になる方は、歌詞系サイトに飛ぶと良いと思いまする。
「さよなら人類」作詞:柳原幼一郎
二酸化炭素をはきだして あのこが呼吸をしているよ
どん天模様の空の下 つぼみのままでゆれながら
野良犬はぼくの骨くわえ 野生の力をためしてる
路地裏に月がおっこちて 犬の目玉は四角だよ
今日 人類がはじめて 木星についたよ
ピテカントロプスになる日も 近づいたんだよ
続きも素晴らしい。だが、歌詞が詩的であることに共感していただくには、これだけで充分だろう。
初めてテレビで観た時は、そのビジュアルと「木星についたよ」の後の「ついたー!」というコーラス(?)に笑ってしまって「牧歌的ないい曲だなぁ」なんて騙された。内容はちっとも牧歌的でも朴訥でもない。とんがってる。
「あのこ」が「二酸化炭素をはきだして」と、のっけからガツンと言ってる。だが、メロディーがとても、ほんわかしているので、内容にまで頭が回らないのだ。作曲も作詞と同じ人だから「確信犯」だ。
3行目の「ぼくの骨」を「野良犬」がくわえてるってのもシュールだ。「ぼく」はどういう立場でこの歌を書いたのか。しかも「犬の目玉は四角だよ」って、もう世界観がぶっ飛んでいて、頭の中でお星様がペカペカ光っちゃう。すげぇ。こういう世界観は作り出せないなと思った。バンドマンにしておくのは惜しい。文学をやったらいいのに、って思った。
で、最後の部分がまたキてるので、途中を飛ばしてご紹介。
「さよなら人類」作詞:柳原幼一郎・・・続き
サルにはなりたくない サルにはなりたくない
こわれた磁石を砂浜で ひろっているだけさ
今日 人類がはじめて 木星についたよ
ピテカントロプスになる日も 近づいたんだよ
サルになるよ サルになるよ
「サルにはなりたくない」と言いながら、最後「サルになるよ」って。全文を読むと、原爆のことを書いていることが分かるのだが、「サルになるよ」という脅し文句はすごいと思う。だいたい「ピテカントロプス」なんて歌詞を書いた人がそれまでいただろうか。
近頃の若者の作る歌詞にも素晴らしいものは沢山ある。私は「SEKAI NO OWARI」の歌詞で「ファフロッキーズ」が出てきたときにも「なんじゃそりゃ」と慌ててググり、その後感心仕切りで、口を阿呆のように開けて聴いていた。
だが、柳原幼一郎という人の歌詞はそういう「びっくり」が「びっしり」詰まっているのだ。ちゃんと全文読めば、内容は分かるのだが、一筋縄じゃ行かない感が満載。この人とお話しできたとしても、私なんぞは聞く一方で、「はぁ、へぇ、はい、はい、はい、ごもっともで」と間抜けな相槌を打つだけになっちゃいそうだ。
サルにはなりたくないが、サルになりそうだ。いや、もうサルなのかも。
今週のお題「わたしの好きな歌」